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“ごきげん学”とは|EY×富田宇宙氏×応用スポーツ心理学が個人の日常に降りる時のユング派的再解釈

2026 5/26
個性化とこころの構造
2026年5月26日

※本記事には広告(PR)が含まれます。

2026年5月、共同通信が「EYで『ごきげん学プログラム』 応用スポーツ心理学の知見活用 パラ水泳アスリートの富田さん」というニュースを配信しました。パラ水泳アスリートでEY Japan所属の富田宇宙氏が開発した「ごきげん学」を、EYが2025年9月から管理職研修として導入しているという内容です。

本記事では、「ごきげん学」と応用スポーツ心理学の整理、ニュースで紹介された脳の非認知的な使い方の解説に加えて、ユング派分析心理学の自己実現・補償・タイプ論の補助線を引きながら、「ごきげん」が個人の日常に降りてくるとは何が起きているのか、というところまで踏み込みます。

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目次

ニュースの整理|EY×富田宇宙氏「ごきげん学プログラム」

共同通信の記事(2026年5月25日配信)から要点を整理します。

・導入企業: EY Japan(千代田区)
・開発者: 富田宇宙氏(パラ水泳アスリート、EY Japan所属、東京2020で銀2銅1、パリ2024で銅2)
・プログラム名: ごきげん学プログラム
・導入時期: 2025年9月から管理職研修として導入
・位置づけ: 応用スポーツ心理学(スポーツ心理学をアスリート現場で実践→ビジネスパーソン向けに最適化)
・特徴: 「脳の非認知的な使い方を活性化」「内発的な感情や主体的な目的を意識することで心を整える」
・対照軸: 従来のPDCA思考(結果重視)ではなく、感情への気づきと心の余裕

富田氏は16歳で網膜色素変性症であることが判明し、視覚障害を抱えながらアスリート活動とビジネス活動を続けています。彼が自身の競技人生の中で磨いてきた感情マネジメントの知恵を、研修プログラムとして体系化したのが「ごきげん学」です。

応用スポーツ心理学とは|現場の知恵を一般化する

「ごきげん学」の母体になっているのが応用スポーツ心理学(Applied Sport Psychology)です。この分野はもともと、アスリートのパフォーマンス向上・コンディショニング・対人関係を扱う臨床的な領域として発展してきました。

従来の3本柱

応用スポーツ心理学の代表的な3本柱は次のとおりです。

・メンタルスキルトレーニング: イメージトレーニング、目標設定、リラクセーション、セルフトーク
・パフォーマンス向上支援: ゾーン状態(集中の極限)への入り方、緊張のコントロール
・人間的成長支援: 競技を通じた自己理解、ライフスキル形成

これらは1960年代以降、ハーバード大学のヘリック・タットコ、米国のレイニー・マーテンス、日本では高妻容一氏らによって体系化されてきました。

“非認知的”という言葉の意味

ニュースに出てきた「脳の非認知的な使い方」という表現は、近年の教育学・心理学で広がっている非認知能力の議論を踏まえています。学力テストでは測れない「やり抜く力」「自己制御」「感情に気づく力」「他者と協調する力」といった領域です。

富田氏が言う「内発的な感情や主体的な目的を意識する」というのも、外側から与えられる目標(KPI、ノルマ、報酬)ではなく、自分の内側から湧いてくる感情や意味への接続を扱う、という意味合いです。応用スポーツ心理学の文脈では、これは内発的動機づけ(self-determination theory)とも深く関わります。

“ごきげん”を分解する|感情のセルフモニタリング

「ごきげん」という言葉は日常語ですが、心理学的に分解するとかなり立体的な構造を持っています。

ごきげん=感情×気づき×行動の3層

応用スポーツ心理学の中で「ごきげん」を扱うと、次の3層構造になります。

・感情層: いま自分がどんな感情を抱えているか(快・不快・興奮・落ち着き)
・気づき層: その感情を、自分が観察できているか(メタ認知)
・行動層: その感情と気づきを踏まえて、どんな行動を選ぶか

「ごきげんでいる」とは、3層すべてが揃った状態を指します。感情が落ち着いているだけでは足りず、自分の感情に気づき、それを踏まえて自分らしい行動を選べている、という状態です。

“ごきげん”はポジティブを演じることではない

ここで誤解されやすいのが、「ごきげん=いつもニコニコしている」「ネガティブな感情を出さない」というイメージです。富田氏が強調しているのは「単なるポジティブシンキングではない」という点で、感情を抑圧して上機嫌を演じるのは、応用スポーツ心理学の文脈でも持続しないことが指摘されています。

むしろ、ネガティブな感情に気づき、それを必要に応じて表現し、しかし振り回されない、という感情との距離の取り方こそが「ごきげん」の中身、と整理できます。

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日本のスポーツメンタルトレーニング研究を長年牽引してきた高妻容一氏による定番書。目標設定、イメージ、セルフトーク、ゾーン状態など、応用スポーツ心理学の基本ツールを一般向けにまとめた一冊で、「ごきげん学」の背景にある理論的フレームを押さえたい人に向いています。

ユング派の補助線|自己実現と補償

ここからがユング派分析心理学の補助線です。応用スポーツ心理学が「観察可能なメンタルスキル」を扱うのに対し、ユング派は同じ「ごきげん」現象を、自己実現・補償・タイプ論という長期の心の構造から読み直します。

1. 個性化と自己実現

ユングは人間の人格成熟プロセスを個性化(Individuation)と呼びました。これは、本人が「本来そうあるべき自分」へと近づいていくプロセスで、ユング派的に言えば自己(Selbst、こころ全体の中心)への近づきです。

富田氏が視覚障害を抱えながらも競技と仕事を両立し、その経験を「ごきげん学」として体系化していくプロセスは、ユング派の補助線で読めば、まさに個性化の道のりに重なります。プログラムを受講する側にとっても、目標達成のためだけでなく、自分自身の人生を生きるための感情マネジメントとして取り組むと、長期的な意味が変わってきます。

2. 補償という概念

ユング派の中心概念のひとつに補償があります。意識が一方向に傾きすぎると、無意識が反対方向に働いてバランスを取ろうとする、という考え方です。

「ごきげんでいなければならない」「ポジティブでなければならない」と過度に意識が傾くと、無意識には怒り・悲しみ・倦怠といった感情が溜まりやすくなります。富田氏が「単なるポジティブシンキングではない」と強調するのは、まさにこの補償リスクへの警戒、と読み解けます。

3. タイプ論との接続

ユングは『心理学的類型』で、人間の意識の使い方を外向/内向と思考・感情・感覚・直観の4機能に分けるタイプ論を展開しました。これは「人によって機嫌の保ち方は違う」という事実に、構造的な見取り図を与えてくれます。

たとえば思考機能優位の人にとっての「ごきげん」は「論理的に納得できている状態」かもしれず、感情機能優位の人にとっては「人との温かい関係が保たれている状態」かもしれません。応用スポーツ心理学が提供する「ごきげん」の基本フレームに、ユング派のタイプ論を重ねると、自分に合ったマネジメント方法が立体的に見えてきます。

応用スポーツ心理学とユング派の比較

これまでの議論を表で整理します。

観点 応用スポーツ心理学(ごきげん学) ユング派分析心理学
主たる関心 パフォーマンスと感情マネジメント 個性化と自己への近づき
キー概念 非認知能力、内発的動機づけ、ゾーン 個性化、自己、補償、タイプ論
時間軸 1試合~競技人生のスパン 人生全体のスパン
介入方法 目標設定、イメージ、セルフトーク、感情モニタリング 夢分析、能動的想像、タイプ論的理解
強み 具体的・再現性・短期効果 長期的意味付け・人格成熟
限界 無意識・象徴・人生の意味は射程外 定量比較・短期効果検証が難しい

応用スポーツ心理学はパフォーマンスを支える感情マネジメントを、ユング派はその先にある人生の方向性を扱う、という役割分担で読むと、両者がうまく噛み合います。

個人の日常への降ろし方|セルフ”ごきげん学”

EYのような企業研修としての導入は本格的なプログラムですが、応用スポーツ心理学とユング派の両方から学べる入口は、個人の日常にも開かれています。医療的な効果を約束するものではなく、自分のこころへの気づきを促す取り組みとして捉えてください。

日常で試せる5本

・1. ごきげん天気予報: 朝・昼・夜の3回、自分の「ごきげん度」を5段階で記録する(応用スポーツ心理学のセルフモニタリング)
・2. ネガティブの観察: イライラ・落ち込みを感じたとき、抑え込まずに「いま自分は○○を感じている」と言葉にしてみる(メタ認知)
・3. 内発の手がかり: 「今日やりたかったこと」「やらされていたこと」を1日の終わりに分けて書く(内発的動機づけの整理)
・4. タイプ論セルフ問い: 自分が「ごきげん」を感じやすい場面の特徴を3つ挙げ、思考/感情/感覚/直観のどの機能が満たされているか考える(ユング派タイプ論)
・5. 補償チェック: 「ポジティブを演じすぎていないか」「無理に上機嫌にしていないか」を週1で問う(ユング派の補償回避)

これらは個人差が大きく、合う合わないがあります。すべてを毎日やる必要はなく、自分にとって続けやすいものを1~2つ選ぶ姿勢で十分です。深く掘って辛くなる場合は無理に進めず、信頼できる第三者と話す選択肢も持ってください。

“ごきげん”が組織と個人をつなぐ

EYの管理職研修としての導入は、組織にとって「メンバーが感情を持った人間であること」を前提に組織運営を再設計する、という大きな方向性の現れでもあります。応用スポーツ心理学が長年かけて積み上げてきた知見が、競技の現場を越えて、ビジネスの現場へと適用範囲を広げているわけです。

同時に、ユング派の側から見れば、「ごきげん」は単に組織の生産性を高めるツールではなく、各個人の個性化のプロセスを支える概念でもあります。組織の中で「ごきげん」を保つことが、一人ひとりの自己との対話の機会にもなる、という二重性を持つわけです。

この二重性を意識すると、研修で渡される「ごきげん学」のフレームを、自分自身の長い人生の中の道具として位置づけ直すことができます。組織の生産性のためだけでもなく、自分の人生の意味のためだけでもなく、その両方を行き来する道具として「ごきげん」と付き合う、という姿勢が、応用心理学とユング派の両方から見て穏当です。

よくある質問(FAQ)

Q1. 「ごきげん学」は宗教やスピリチュアルとは違うのですか

違います。富田氏のごきげん学は応用スポーツ心理学を母体とし、内発的動機づけ・非認知能力・感情のセルフモニタリングといった、研究の蓄積がある概念に支えられています。スピリチュアルな効果を約束するものではなく、感情と行動の整理ツールとして使うのが穏当です。

Q2. ポジティブシンキングと「ごきげん」は同じですか

同じではありません。富田氏自身が「単なるポジティブシンキングではない」と強調しており、ネガティブな感情を抑圧するのではなく、気づき、必要に応じて表現し、振り回されない、という感情との距離の取り方を重視しています。ユング派の補償概念から見ても、ポジティブを演じすぎないことは大切です。

Q3. 視覚障害のある富田氏の経験は、視覚に問題のない人にも応用できますか

応用できます。富田氏自身が言うように、視覚障害を抱えながら競技と仕事を続ける中で磨いた感情マネジメントの知恵を、一般のビジネスパーソンに最適化したのが「ごきげん学プログラム」です。個別の境遇は異なっても、感情への気づき・内発的動機づけ・タイプ別の機嫌の保ち方といった枠組みは、誰にとっても応用可能な構造を持っています。

Q4. ユング派のタイプ論はどこで学べますか

ユング自身の『心理学的類型』(みすず書房ほか)が原典です。一般向けの入門書としては河合隼雄『ユング心理学入門』、マレー・スタインの邦訳書などがあります。MBTIなどの簡易テストは入口として使えますが、原典・解説書に当たることで誤解が減ります。

Q5. 組織で導入されている研修は、個人で実践しても効果がありますか

個人差はありますが、応用スポーツ心理学のセルフモニタリングやセルフトークの基本は、個人でも取り組み可能です。本記事のセルフワーク5本も、その入口として設計しています。深く取り組みたい場合は、書籍・専門家・公認スポーツメンタルトレーニング指導士など、外部リソースを併用する選択肢があります。

本記事のまとめ|パフォーマンスと個性化、両方の地平で”ごきげん”を扱う

本記事では、共同通信が伝えたEY×富田宇宙氏「ごきげん学プログラム」のニュースを起点に、応用スポーツ心理学のフレームと、ユング派分析心理学の自己実現・補償・タイプ論を並べてきました。

応用スポーツ心理学は短期的なパフォーマンスを支える感情マネジメントの枠組みを、ユング派はその先にある人生全体の個性化のプロセスを扱います。両者を行き来する視点を持つと、組織研修で配られる「ごきげん」というフレームが、自分の人生の長い時間軸の中に位置づけ直され、ニュースの一行要約を超えて立体的に見えてきます。

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