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つるの剛士さんの「47歳ミッドライフ・クライシス」をユング心理学で読み解く|人生の正午と個性化

2026 6/01
個性化過程と葛藤
2026年6月1日

※本記事には広告(PR)が含まれます。

2026年5月30日、ウェブメディア「GOETHE[ゲーテ]」に、タレントのつるの剛士さんが47歳で経験した不調についてのインタビューが掲載されました。眠れなくなり、ある日、妻とお茶を飲んでいるときに涙が止まらなくなった――そんな体験を、つるのさん自身が率直に語っています。そして、その揺らぎから抜け出す手がかりになったのが、ユングや河合隼雄の言葉だったといいます。

本記事では、このインタビューを起点に、ユング派分析心理学が「中年期の揺らぎ」をどう捉えてきたのかを整理します。鍵になるのは「人生の正午」「個性化(自分らしさへ向かうプロセス)」「補償」「影(シャドウ)の統合」といった概念です。中年の不調を一方的に病として片づけるのではなく、こころの方向が切り替わる転換点として読み解く視点を、内省のためのワークとともに紹介します。

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目次

インタビューの整理|つるの剛士さんが語った47歳の揺らぎ

まず、GOETHEのインタビュー(2026年5月30日公開)で語られた内容を、事実に沿って整理します。心理学的な解釈に入る前に、語られたエピソードそのものを確認しておきます。

・不眠の始まり: もともと睡眠時間は4時間ほどだったが、その時期は「1時間寝たら目が覚めて、二度寝ができない」状態になり、疲労が蓄積していった
・涙のエピソード: 妻とお茶を飲んでいたとき「なんだか涙がポロポロあふれてきて……」と、自分でも「おかしい」と感じる体験があった
・救われた言葉: ユングや河合隼雄が「自分の価値観で猪突猛進に生きてきた人が、ある程度の年齢になると、自分のなかで抑圧していたものが噴き出してきて、葛藤にぶちあたる」と述べていることを知り「すごく救われた」
・薦めている本: 河合隼雄『ユング心理学入門』『中年危機』
・背景: 2020年に短大へ入学して保育士・幼稚園教諭の資格を取得し、卒業後は児童心理学を学ぶために4年制大学へ編入。揺らぎが訪れたのは、ちょうど大学で心理学にふれるようになったタイミングだった

つるのさんは「それまでは元気に前向きでなければいけない、ネガティブな自分は駄目だと決めつけて、無意識のうちに自分の潜在意識に押し込めていた」と振り返り、そのうえで「無理をしなくてもいいんだと思えるようになって、人生観がガラッと変わりました」と語っています。

ここで大切なのは、これがあくまで一人の方の体験談であり、医学的な診断や治療の話ではないという点です。本記事も、不調そのものへの対処を論じるものではありません。あくまで「中年期に起こりやすいこころの揺らぎ」を、ユング心理学という一つの枠組みからどう眺められるか、という読み解きの記事です。心身の不調が続く場合は、専門医や専門家への相談が推奨されています。

ユングが見た「人生の正午」|方向が切り替わるとき

つるのさんが手がかりにしたユング心理学には、まさにこの中年期の揺らぎを扱う有名な比喩があります。それが「人生の正午(Lebensmitte)」です。

ユングは人生を一日の太陽の運行にたとえました。午前は、太陽が東から昇り、高く明るくなっていく時間です。人生でいえば、学校を出て、仕事を覚え、地位や家庭を築き、外の世界へ自分を広げていく前半生にあたります。やるべきことははっきりしていて、価値観も「もっと上へ、もっと前へ」で一貫しています。

ところが正午を過ぎると、太陽は同じ空を、今度は西へ向かって下りはじめます。高さは変わらないのに、進む向きが反対になる。ユングはこの転換点を中年期に重ねました。外へ広げる午前のやり方のまま、そのまま午後を生きようとすると、どこかで無理が生じる――これがユングの基本的な見立てです。

つるのさんが救われたという「猪突猛進に生きてきた人が、ある程度の年齢で抑圧していたものとぶつかる」という言葉は、この「正午の転換」を別の角度から言い表したものと読めます。午前のあいだ、効率や前向きさのために脇へ置いてきたもの――弱さ、迷い、ネガティブな感情――が、午後に入ると静かに、しかし確実に戻ってくる。それは異常ではなく、むしろ自然な時間の節目だ、という捉え方です。

「危機」という言葉のもう一つの意味

ミッドライフ・クライシスの「クライシス(crisis)」は、日本語では「危機」と訳されますが、語源のギリシャ語 krisis には「分かれ目」「決定的な転機」という意味があります。病院の「峠を越す」の峠に近いニュアンスで、悪いほうにも良いほうにも転びうる分岐点を指す言葉です。

ユング派の視点では、中年の揺らぎは「壊れること」よりも「組み替えが始まること」に近いと考えます。前半生で作り上げた自分のかたちが、後半生に合わなくなってきたために、いったんほどけて編み直される。その編み直しの最中は、たしかに足元が不安定になります。けれども、それは終わりではなく、方向が変わる過程だと読み解くわけです。

個性化|後半生は「本当の自分」へ向かう時間

この「方向の切り替わり」を、ユングは個性化(こせいか/individuation)という言葉で説明しました。個性化とは、社会に合わせて作った表向きの自分(ペルソナ=仮面・社会的役割)だけでなく、これまで光を当ててこなかった内側の部分も含めて、自分という全体へまとまっていくプロセスを指します。

前半生の課題が「社会のなかに自分の居場所をつくること」だとすれば、後半生の課題は「その居場所のなかで、本当はどう生きたいのかへ立ち返ること」です。肩書きや役割を一度わきに置いて、自分の内側の声を聞き直す。ユングは、中年以降に訪れる不調や空虚感を、この個性化への呼び出しのサインとして捉えました。

「前向きでなければ」という鎧をほどく

つるのさんの「元気に前向きでなければいけない、ネガティブな自分は駄目だと決めつけていた」という言葉は、個性化の文脈で読むと示唆に富みます。「いつも前向きな自分」というのは、社会のなかでとても役に立つペルソナ(仮面)です。仕事でも家庭でも、明るく前向きであることは求められやすい。だからこそ、その役割を上手に演じられる人ほど、反対側の感情を抑え込んでしまいがちになります。

個性化は、このペルソナを捨てることではありません。仮面は社会で生きるために必要なものです。そうではなく、仮面と自分を完全には同一視しないでいられるようになること――これが個性化の一歩です。「前向きな自分」も自分だが、「涙があふれる自分」も同じく自分だと受け取り直す。つるのさんが「無理をしなくてもいい」と思えたという変化は、まさにこの受け取り直しに近いものとして読めます。

学び直しという「午後の入り口」

つるのさんが揺らぎを経験したのは、保育士・幼稚園教諭の資格を取り、児童心理学を学ぶために大学へ編入した時期と重なっていました。すでに社会的な評価を得ている人が、あらためて学びの場に身を置くというのは、ユング派の視点から見るととても象徴的です。前半生で築いた肩書きをいったん脇に置き、もう一度「学ぶ側」に立つことは、外へ広げる午前のやり方から、内側を耕す午後のやり方へ重心を移す行為だからです。

学び直しは、それまで気づかなかった自分の関心や弱さに出会いやすい時間でもあります。新しいことを学ぶと、できない自分・分からない自分と向き合わざるをえません。前半生で「できる自分」を磨いてきた人ほど、この体験は揺さぶりになります。けれども、その揺さぶりこそが、抑えてきた感情を表に呼び出し、個性化を前に進める力になります。中年以降に学びや新しい挑戦へ向かう人が、しばしば内面の整理を迫られるのは、こうした仕組みが背景にあると読み解けます。

補償と影|抑え込んだものが戻ってくる仕組み

では、なぜ午後になると、抑え込んでいたものが「噴き出してくる」のでしょうか。ユング心理学には、これを説明する二つの概念があります。補償(compensation)と影(シャドウ=心の暗がりに置かれた自分の一部)です。

ユングは、こころには自然なバランスを取り戻そうとする働きがあると考えました。これが補償です。意識の側がある方向へ偏りすぎると、無意識の側が反対の力を送り出して、全体のつり合いを回復しようとする。前向きさだけを強めてきた人のこころには、その分だけ、表に出してこなかった感情が無意識の側にたまっていきます。涙や不眠といったかたちで何かが表に出てくるのは、無意識が「そろそろ向きを変えたほうがいい」と知らせている――ユング派はそんなふうに読み解きます。

その「表に出してこなかった自分の一部」を、ユングは影(シャドウ)と呼びました。影は、悪いものという意味ではありません。自分が「これは自分ではない」と脇へ置いてきた性質の総称です。弱さ、甘え、怒り、迷い――前半生で「前向きな自分」を保つために隠してきたものほど、影として濃くなります。そして影は、押さえつけるほど力をため込み、ふとした瞬間に思いがけないかたちで顔を出します。

影との向き合い方|消すのではなく、座らせる

ユング派が大切にするのは、影を消そうとしないことです。影は自分の一部なので、消すことはできません。できるのは、その存在を認め、こころの食卓に席を用意してあげることです。「自分のなかには、弱さも迷いもある」と認めること自体が、影との和解の入り口になります。

つるのさんが河合隼雄らの言葉に「救われた」と感じたのは、おそらくここに関わっています。「抑圧していたものが噴き出すのは、おかしいことではない」と知れたことで、あふれてくる感情を異物としてではなく、自分の一部として座らせ直せた。それが「人生観がガラッと変わった」という変化につながったと読み解けます。

夢や涙という「無意識からの便り」

ユング派の見立てでは、補償は意識が眠っているあいだにも働きます。中年期に印象的な夢を見るようになったり、これまで関心のなかったものに急に心が動いたりするのは、無意識が「いまの自分の向きを少し変えてはどうか」と便りを送っている合図と捉えます。つるのさんの不眠や涙も、頭で考える前に身体やこころのほうが先に「向きを変えよう」と動き出していた、と読むことができます。

ここで大切なのは、こうした便りを無理に解釈しようと焦らないことです。ユング派の臨床でも、夢や感情はすぐに意味を確定させるのではなく、しばらく手元に置いて眺めるものだとされます。「これは何のサインだろう」と問い続ける姿勢そのものが、無意識との対話を育てます。涙が出たら止めることだけを考えるのではなく、「いま、自分のなかで何が動いているのだろう」と一歩引いて眺める。その距離の取り方が、補償の働きを敵ではなく味方にしていきます。

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中年危機(河合隼雄著、朝日文庫)

つるのさんも薦める一冊。夏目漱石や大江健三郎など日本文学12作を題材に、中年期のこころの深層を河合隼雄がやさしく読み解きます。「人生の正午」を物語を通して体感したい方に。

「フロイトの中年観」とどう違うのか|比較で整理する

中年期の揺らぎは、ユング以外の見方でも語られてきました。ここでは代表的な三つの視点を並べて、ユング派の特徴を浮かび上がらせます。なお、いずれも考え方の枠組みの比較であり、どれが正しいというものではありません。

視点 中年の揺らぎの捉え方 向き合う方向
ユング派(人生の正午) 前半生で抑えた部分が補償として戻り、全体へまとまり直す転換点 内側の声を聞き、影を統合して「本当の自分」へ
フロイト派(精神分析) 過去(特に幼少期)の未解決の葛藤が、人生の節目で再び表面化する 過去にさかのぼり、抑圧された願望の由来を理解する
発達心理学(エリクソン) 「世代継承性 対 停滞」という、中年期に固有の発達課題への直面 次世代や社会へ何を遺すか、生み出す方向へ

三つを見比べると、ユング派の特徴がはっきりします。フロイト派が過去へさかのぼって原因をさぐり、エリクソンが未来の社会的役割へ目を向けるのに対し、ユング派はいまここで起きている、自分の全体へのまとまり直しに焦点を合わせます。揺らぎを「治すべき不具合」ではなく「方向を変えるための過程」として読む点が、ユング派らしいところです。

日常に降ろす|中年期の揺らぎと向き合う内省のワーク

ここからは、ユング派の視点を日常へ降ろすための内省のワークを紹介します。これは診断や治療ではなく、自分のこころを少し離れて眺めるための小さな手がかりです。気が向いたものだけ、ノートに書きながら試してみてください。心身の不調が強いときは無理をせず、専門家への相談を優先してください。

ワーク1|「前向きな自分」の鎧を書き出す

自分がふだん、人前で保とうとしている「あるべき姿」を3つ書き出します。「いつも元気」「弱音を吐かない」「頼りにされる」など。これがあなたのペルソナ(仮面)です。書き出すこと自体が、仮面と自分を少し切り離す練習になります。

ワーク2|「席を用意していない感情」を探す

最近、感じても「これは出してはいけない」と押し戻した感情を思い出します。苛立ち、さびしさ、うらやましさなど。それを否定せず「いま、こういう気持ちがあるな」とだけ書き留めます。影に席を用意する練習です。

ワーク3|「人生の正午」の位置を眺める

これまでの人生を一日の時間にたとえると、いまは何時ごろだろうかと想像します。正解はありません。「もう午後かもしれない」と感じたなら、午前のやり方のまま走り続けていないか、立ち止まって眺めてみます。

ワーク4|後半生で「本当はどうしたいか」を一行で

肩書きや役割をいったん外して、「本当はどう生きたいか」を一行だけ書きます。うまく言葉にならなくても構いません。書けないという事実そのものが、個性化のスタート地点を教えてくれます。

ワーク5|信頼できる相手に「弱さ」を一つ預ける

家族でも友人でも、安心できる相手に、ふだん見せない弱さや迷いを一つだけ言葉にしてみます。つるのさんの涙が妻の前であふれたように、安全な関係のなかで抑えていたものがほどけることがあります。これは個性化を一人で抱え込まないための大切な一歩です。

よくある質問|ミッドライフ・クライシスとユング心理学

Q1. ミッドライフ・クライシスは病気ですか?

本記事で扱っているユング派の「人生の正午」は、医学的な病名ではなく、こころの発達における転換点を指す考え方です。一方で、不眠や気分の落ち込みが続く場合は、医療的なケアが必要なこともあります。両者は別の話なので、つらさが続くときは専門医や専門家への相談が推奨されています。

Q2. 何歳ごろに起こりやすいのですか?

ユングは特定の年齢を断定していませんが、おおむね40代前後を「人生の正午」のあたりと考えました。ただし個人差が大きく、もっと早い人も遅い人もいます。年齢そのものより、「外へ広げる前半生のやり方が合わなくなってきた感覚」のほうが目安になります。

Q3. 「前向きでいよう」と努力するのは逆効果ですか?

前向きさ自体が悪いわけではありません。ユング派が問題にするのは、前向きさ「だけ」で自分を固めて、反対側の感情に席を用意しないことです。前向きな自分も、迷う自分も、どちらも自分として置いておけると、こころのつり合いが取り戻されやすくなります。

Q4. ユング心理学を学ぶには何から読めばよいですか?

つるのさんも薦めている河合隼雄『ユング心理学入門』は、日本語で書かれた本格的な入門書として読み継がれています。中年期のテーマに絞るなら、同じ著者の『中年危機』が、日本文学を題材にしていて入りやすい一冊です。

Q5. 影(シャドウ)と向き合うのは怖くないですか?

影は「悪い自分」ではなく、「これまで脇に置いてきた自分の一部」です。一気に向き合う必要はありません。本記事のワークのように、小さく書き留めるところから始めれば十分です。強い不安をともなう場合は、一人で抱えず専門家の力を借りることも選択肢になります。

まとめ|揺らぎを「方向が変わるサイン」として受け取る

つるの剛士さんが47歳で経験した不眠や涙は、ご本人の言葉を借りれば「人生観がガラッと変わる」きっかけになりました。ユング心理学の枠組みで眺めると、その揺らぎは「人生の正午」を過ぎて方向が切り替わるときに、前半生で抑えてきたものが補償として戻ってくる――そんな自然な過程として読み解けます。

大切なのは、戻ってくる感情を異物として押し戻すのではなく、自分の一部として席を用意し直すことです。前向きな自分も、迷う自分も、同じ一人の自分として置いておけるようになること。それがユングのいう個性化、後半生をかけて「本当の自分」へまとまっていくプロセスの入り口になります。揺らぎを感じたときは、まず立ち止まって、いまが人生の何時ごろかを静かに眺めてみてください。

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日本で最初の本格的ユング心理学入門書として読み継がれる一冊。個性化や元型、影といった本記事の概念を、原典に近いかたちでていねいに学べます。ユング心理学をもう一歩深く知りたい方に。

ユング心理学の基礎をさらに知りたい方は、関連記事もあわせてどうぞ。

・個性化とは|ユングが説いた「本当の自分」になるプロセス
・個性化過程での葛藤|対立を抱えることで人は成熟する
・シャドウとは|自分の影と向き合うユング心理学の自己理解術

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